スポーツにおける反復練習のありかた
「スポーツの練習では反復練習が重要です。」というのは常識であります。
これは疑いようがありません。
でも、何でもかんでも反復練習させていませんか。
子供が上達しないのを反復練習が足りないせいにしてませんか。
反復練習のメカニズム
とにかく数をこなせばそれなりにサマになるもんです。
でも、そのメカニズムを理解することで、上達が早くなるかもしれません。
よく引き合いに出されるのは、子供が自転車の練習をする過程です。
自転車に乗れない子供は、大脳で自転車を操ろうとします。
その運動指令は小脳に伝達されます。
どうして良いか分からない子供は、なんども試行錯誤し転倒します。
転倒したとき、脳は失敗だと認識し、小脳は今の行動は失敗だから記憶から消そうとします。 これを「長期抑制」と言います。
何度も転倒することを繰り返すと、小脳には成功例の行動パターンが蓄積されます。
これが一般的に考えられている習熟のメカニズムです。
このモデルでは、大脳はランダムに行動指令を出すだけです。
そのなかに成功例があれば小脳に記憶されるのでそれを期待します。
自転車乗りや、ヨチヨチ歩き、初めてのたっちなどはこのモデルで間違いありません。
ガニマタであろうが、どんな変な歩き方でも構わないからです。
ある程度の期間、放置プレイすれば出来るようになります。
大脳はどう働くのか。
さて、習熟のメカニズムにはもう一つあるというのが最近の研究です。
大脳がランダムに運動指令を出すのではなく、大脳が得た正解パターンが繰り返しの動作によって小脳にコピーされるという考え方です。
このメカニズムの分かりやすい例は九九の練習の場合です。
最初は計算や正解の目視によって九九を口述することを繰り返します。
このとき大脳には九九の正解パターンが刻み込まれます。
九九の口述を繰り返すことにより正解パターンが小脳にコピーされ、あとは「さんご」といえば反射的に「じゅうご」と回答できるようになります。
この場合には、繰り返す前に大脳に正解パターンを構築することが重要になります。
大脳と小脳の連携
実際のスポーツの場面ではどうなっているのでしょうか。
野手同士の送球のような場面では、大脳は誰に向かってどの程度の強さのボールを投げようかということを考えます。
そのときの腕の振りやリリース位置などは小脳の役割です。
小脳には、ボールの重さ、投げるスピードと放出角度による飛距離のグラフなどのボールに対するモデルや、自分の腕の筋力、出せる力などの投球動作に対するモデルが構築されています。
大脳では、ボールのモデルを腕のモデルに投げさせることで投球動作の指令を出します。
細かい動きは小脳の役目です。
「練習」のやりかた
以上のことを踏まえると、練習の段階が見えてきます。
1)ゆっくりした動きで正解パターンを繰り返し、大脳に正解パターンを刻み込む。
2)更に繰り返すことで、小脳に身体のモデルを構築する。
3)正解パターンのバリエーションを増やすことで、大脳の思考と小脳のモデルの連携を深める。
ここで重要なのは、失敗例を積み重ねることが出てこなかったことです。
長期抑制を使わない練習です。
大事なことは次の二つです。
A)大脳に正解パターンを刻み込む。
B)小脳に身体モデルを構築する。
ウィンドミルでは
ウィンドミルの習得が難しいのは、ボールをリリースするモデルが小脳に構築されにくいからです。
上手投げは類似する手の動きが日常的に出てくるために、モデルが容易に構築されると考えられます。
さらに暴投したときにも身体的ダメージがないので小脳での長期抑制が起こりにくいのです。
自転車の練習では転倒して痛いというダメージから強烈に長期抑制が起こります。
ウィンドミルで暴投した程度では心理的ダメージはありますが、小脳に直結したダメージが無いので試行錯誤による習熟は効果が薄いのです。
暴投した瞬間にビンタを食らわすなどの練習法なら効果あるかもしれませんが。
5時位置で物体を前向きに押すという身体モデルをいかに構築するのかがキーになると思います。
暴投してしまうのは、リリースタイミングが大脳に意識できていないからで、その段階で繰り返し動作をしても安定したりリースポイントは習熟できません。
まずは、それを意識できることが重要です。
どうして日本では指導法が確立していないのか
ひとつの例を出します。
お箸の持ち方をどうやって外人に教えますか。
大抵の人はやって見せるしかできないでしょ。
箸の持ち方は勉強して覚えるわけではないので、大脳に動きがプログラムされて無いのです。
外人に箸の持ち方を教えようと思えば、箸の持ち方をもう一度大脳に構築する必要があります。
小脳にしか動きが構築されていないと、それは人に教えられません。
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